クライミングのムーブ別で使われる筋肉と、その筋肉を鍛えるための筋トレを紹介していきます。
今回はクライミングのムーブの中でも基本中の基本と言ってもいい、正対ムーブについて動作の分析と使われる筋肉、特に鍛えるべき筋肉のトレーニングについて記載したいと思います。
正対ムーブの動作分析
そもそも正対ムーブとは何かというと、一般的には体全体を常に壁に対して正面に向けて登るムーブです。
それに対して体をひねってフットホールドをアウトサイド側で踏み込み、体の正面が横を向きながら次のホールドをとりに行くムーブがいわゆるダイアゴナルです。(正確にはこちらはアウトサイドダイアゴナルで、正対ムーブがインサイドダイアゴナルです。)
ここではムーブを単純化するために、右手で次のホールドを取りに行く場合を考えます。

上の図において右側のホールドのみの着目して、赤と青色のホールド、緑と黄色のフットホールドを使うこととします。
以下順番に動作を追って説明していきます。
①最初は両腕両脚が少し曲がっていて、壁にへばりついているような体勢からスタートします。通常は手が伸び切って腰を落としてぶら下がるようなイメージでいることが多いと思います。
②ここから右足を黄色のフットホールドであげます。そして右側へ重心を移しながら黄色いフットホールドへ乗り込んでいきます。このとき両腕によって体を右上へと引き上げることも同時に行われています。
③右手を離して赤いホールドから青いホールドへと移動させます。この瞬間には左手と両足による3点支持で体勢を安定させる必要があります。
正対ムーブの一部をシンプルに表現するとこの3つの動作となると考えられます。もちろん細かい筋肉の動員、体幹の使用、フリやタメなどの動的な動作もあるかと思いますが、それらは一旦無視して考えていきます。
正対ムーブで使われる筋肉
それぞれの動作について、どの関節をどう動かしているでしょうか。解説していきます。
体を持ち上げる動作(①から②の動作)

股関節の屈曲:右足を上げる際には太ももの筋肉を使うことによって股関節を稼働させ、右足全体を持ち上げて黄色のフットホールドに乗せます。この動作では多くの筋肉が関与しますが、股関節の屈曲では大腰筋や腸骨筋、大腿直筋などの筋肉が作用します。
肩関節の内転:右足を乗せた後、もしくは乗せながら体を持ち上げます。この時に肘を体に近づける動きとなりますが、これが肩関節の内転です。この時には主に広背筋による上腕の引きつけが行われます。
肘関節の屈曲:体を持ち上げる動作では両腕を曲げる動作も同時に起こります。この腕を曲げる動作は肘関節の屈曲と呼び、上腕二頭筋や上腕筋が使用されます。
次のホールドを取りに行く動作(②から③の動作)
②から③の動作では右手を上げて次のホールドを保持しに行きます。

肘関節の伸展:右手を赤いホールドから離す前には体を十分上にあげておきたくなります。その場合、左手はホールドを押さえ込んでプッシュする意識も必要となります。この時左肘を伸ばすような格好になりますが、上腕三頭筋が収縮し、上腕二頭筋や上腕筋が伸展します。
肘関節の屈曲:右手を青いホールドで保持したあとは右腕を曲げて体を引き上げます。この時には引き続き上腕二頭筋や上腕筋が関与します。
前腕屈筋群の屈曲:右手を赤いホールドから離して青いホールドを取ったあと、指を曲げてホールドを保持します。右前腕から指につながる筋肉が働き、指を屈曲させて手のひらが開かないように維持します。
正対ムーブのための筋トレ
クライミングに特に重要となる上半身の筋肉を中心に、それぞれのトレーニング方法を紹介します。
広背筋
腕を体に引き付ける動作では広背筋が主に使われます。広背筋のトレーニングとしてはチンニング、いわゆる懸垂が代表的なものになります。
クライミングでは最も一般的なトレーニングであり、実施していているクライマーも多いでしょう。
正対ムーブで特に垂壁などの傾斜が緩い壁を登る場合は、肘が体の正面ではなく真横に位置することになります。
この状態から体を引き付ける動作では肩関節の内転が中心となります。この動きを中心に鍛えるためには真横の鉄棒を肩幅の1.5倍以上に広げたワイドグリップで保持したチンニングが有効でしょう。

上腕二頭筋・上腕筋
腕を曲げる動作で必ずと言っていいほど使われるのが上腕二頭筋と上腕筋です。
正対ムーブの場合はフラットなホールドを保持していることが多いので、そのときは腕が内側にひねるようになっています。
この場合は上腕筋の関与が大きくなりますので、この状態の動作を鍛えるにはハンマーカールが有効でしょう。

上腕三頭筋
腕の曲げ伸ばしの際には上腕二頭筋と対になって動くのが上腕三頭筋です。ちなみに対となる筋肉のことを拮抗筋と呼びます。
上腕三頭筋を鍛えるためには肘を伸ばす動作のトレーニングが有効です。
特にクライミングでプッシュする動作を意識する場合は、腕を下に下げた状態での肘の曲げ伸ばしが適切でしょう。
このプッシュの動作を効率的に鍛えるには腕立て伏せもいいと思いますし、トレーニング器具を使えるのであればキックバックやケーブルプッシュダウンなどの種目がいいでしょう。

前腕屈筋群
クライミングをしている際に常に使われている指を動かす筋肉として前腕屈筋群は重要です。
ダンベルや鉄棒、トレーニング器具のケーブルなどを使って筋トレをすると自然と前腕も鍛えられることになります。
この前腕を特に集中的に鍛えたい場合は、フィンガーカールやリストカールなどのトレーニングが有効です。

以上正対ムーブで使用される筋肉と、それらを鍛えられるためのトレーニングについて紹介しました。
一つのムーブをとっても多くに筋肉が動員されており、動作も複雑です。その動きを理解することでより効果的にクライミングパフォーマンスを向上させることがきます。
正対ムーブの理解とトレーニングの助けにこの記事が参考になれば幸いです。
参考元
- 「プロが教える 筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典」 ナツメ社
- 「石井直方の筋肉の科学」ベースボール・マガジン社
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