今回は背中の筋肉を鍛えるトレーニングとして、チンニング(懸垂)の動作や効果について紹介します。
クライミングのトレーニングといえば懸垂というイメージもあるように、広背筋や大円筋、上腕二頭筋などクライミングでよく使われる筋肉を鍛えることができるトレーニングです。
チンニング(懸垂)のやり方についての解剖学的な理解を深めることによって効果を増大できますので、ぜひ本記事を参考にしてください。
チンニングの動作
広背筋や大円筋を狙ったチンニングでは、単純な懸垂とは異なる点がいくつかあります。
一般的に懸垂と呼ばれる場合はフォームは関係なく、鉄棒を持って体をひき上げ、回数をこなすことが目的となる場合が多いです。グリップの向きも順手(オーバーグリップ)や逆手(アンダーグリップ)などさまざまで特に決められているわけではありません。
それに対してトレーニングとしてのチンニングは順手でバーを握り、肘を腰に近づけるような感覚で体を持ち上げます。
このときに上腕の筋肉よりも、広背筋や大円筋などの背中の筋肉を動かす意識で動作を行うことがチンニングのでは重要となります。
チンニングは肩関節と肘関節が動作するコンパウンド種目であり、多くの筋肉を動員できるトレーニングです。
チンニングで使われる筋肉
チンニングで主に行われる肘関節の伸展運動では、下記の筋肉主に使用されます。
- 広背筋
- 大円筋
- 上腕二頭筋
- 上腕筋
それぞれの筋肉の解剖学的解説と働きを紹介します。
広背筋
広背筋にはさまざまな役割がありますが、チンニングで主に関係する動作は肩関節の伸展と内転になります。
チンニングで体を引き上げる際には腕を前から後ろへ引きつける動作が行われます。これが肩関節の伸展です。
また、腕を引きつけるときには体の横から体側まで動作させることになりますが、これが肩関節の内転です。
クライミングでは肩関節の伸展と内転の動作が多く使われます。すなわち広背筋を鍛えることでクライミングのパフォーマンスの向上にも役立ちます。
大円筋
大円筋は広背筋と同じような役割があり、広背筋と同時に動きます。
大円筋は肩甲骨と上腕骨をつなぐ単関節筋で、動作としては肩関節の動作のみを行います。
大円筋には肩関節の伸展、肩関節の内転、肩関節の内旋といった働きがあります。
肩関節の伸展と内転は広背筋のところでも説明したとおりで、大円筋が広背筋の動作の補助となることがわかります。
上腕二頭筋
上腕二頭筋はちからこぶを形作る筋肉で、肘を曲げる時に使われます。
上腕二頭筋はその名の通り筋頭が二つに分かれており、体に近く短い方を短頭、遠く長い方を長頭といいます。
上腕二頭筋の働きには、肘関節の屈曲、前腕の回外、肩関節の屈曲、肩関節の水平屈曲があります。
クライミングにおいては肘を曲げて体を引きつける動作が必須ですので、トレーニングすべき重要な筋肉と言えます。
上腕筋
上腕筋は上腕二頭筋に埋もれるように位置しており、肘を曲げる動作に関与します。
上腕骨と前腕の尺骨を跨ぐ単関節筋で、体をかなりしぼれば上腕の肘に近いところに見えてくる筋肉です。
上腕筋を鍛えることで上腕二頭筋を盛り上げ、上腕の迫力を増すことに貢献します。
クライミングでは肘を曲げる動作がほぼ全てのムーブで出てきますので上腕筋も重要な役割をします。
以上のようにチンニングの動作の中では、多くの筋肉が使われていることがわかります。
チンニングのやり方
ここからは鉄棒やチンニングバーを用いたチンニングのやり方を紹介します。
普通に体を持ち上げるだけだと上腕に効いてしまいますが、少しの意識で背中への負荷を高めることができますので参考にしてみてください。
まずは肩幅の1.5倍くらいの手幅でバーを握ります。真っ直ぐに手を上げた状態から拳1個ずつ両手を外側にずらすとそのくらいの手幅になります。
親指はバーの上にして他の指と揃えるサムレスグリップにすると上腕二頭筋の関与を減らして、広背筋や大円筋に効果的に負荷を与えられます。
そこから体を持ち上げますが、足は後ろに組んでおくと軌道が安定するとともに、前後のバランスがとりやすくなります。
体を引き上げるときは胸を張って、みぞおちをバーに向かって当てるような意識で引き上げるとより広背筋に効きます。
チンニングの応用
グリップを変える
ここまでは順手で体を引き上げるチンニングを紹介してきました。
これとは異なって、手のひらが向かい合うようにしてグリップを握るパラレルグリップや、逆手で実施するアンダーグリップで体を引き上げる種目もあります。
これらはパラレルグリップチンニング、アンダーグリップチンニングと呼ぶこともあります。
順手→パラレル→逆手となるにしたがって広背筋のストレッチが効果的にできるようになります。
また逆手になるに従って上腕二頭筋の関与が増えるので、上腕も同時に鍛えたい場合は取り入れてみることもおすすめです。
負荷を変える
チンニングの弱点としては自重で行うため負荷を変えることが難しいことが挙げられます。
軽くするためにはチンニングアシストマシーンやゴムチューブなどを用いることも可能です。
マシーンがあるジムは限られているので、チューブを使用する方法が簡単に実施できます。
バーにチューブを巻きつけて下に垂らし、輪っかになっているところに足をかけて体重を乗せチンニングを実施します。
チューブの固さによって負荷を変化させることができるので、チンニングが一回もできない人には有効な手段となります。
反対に負荷を上げるためには重りをぶら下げる必要があります。
例えば腕や足に巻きつける重りや、ウエイトを入れられるベストを着用する方法があります。重りを入れたリュックを背負ってチンニングを実施する方法もありますが、リュックの強度によります。
本格的に重量を増やしていく場合はディッピングベルトをつけてそこにバーベルの重りをつけるなどする必要があります。ジムで許可されているか、設備があるか確認して実施してみましょう。
スターナムチンニング
チンニングのバリエーションとしてスターナムチンニングというものがあります。
これは主にパラレルグリップで行いますが、体を持ち上げた後に体が地面と水平になるように足の方を上げるような動作です。
これはフロントレバーのような体勢になりますが、肩関節の伸展の動作を強く行うことになります。
スターナムチンニングは筋力も必要な上に体勢を作るテクニックも必要なので難易度が高く、上級者向けの種目になります。
以上チンニングで鍛えられる筋肉とトレーニングの実施方法、応用について紹介しました。
解剖学的に筋肉や動作を意識することで、トレーニングの効率がより高まりますのでこの記事が参考になれば幸いです。
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- 「石井直方の筋肉の科学」ベースボール・マガジン社
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