今回はクライミングのパフォーマンスを向上させるための、広背筋のトレーニングを紹介します。広背筋はクライミングにおいては体を持ち上げるために使用されるため、非常に重要な筋肉です。
クライミングをする際に、腕だけで引いてしまうという場合は広背筋を意識して鍛えることで、クライミングのスキルの向上につなげることができます。
広背筋の解剖学
広背筋は背中全体に広がっており、人体で最も面積が大きい筋肉です。
広背筋の起始部は背骨、仙骨や肋骨であり、上腕骨の脇に近い場所に停止しています。
面積も広く見た目の印象も強いので、逆三角形の大きな背中を形作ることに貢献します。筋トレ界隈で背中の”広がり”や”厚み”と言われることがありますが、このうち広がりに広背筋が大きな役割を果たします。
広背筋の役割
広背筋の働きには、肩関節の伸展、肩関節の内転、肩関節の水平伸展、肩関節の内旋があり、肩関節の動きに大きく関与します。
肩関節の伸展は、体の上方に上げた手を、体の前に下し、体のすぐ横を通って後ろに回す動作です。
肩関節の内転は、腕を横に広げ、体の側面を通って、体の前へ回す動作です。両肩と両膝で作られる平面内の動作です。
肩関節の水平伸展は、地面と水平な面で動作します。前に伸ばした腕を、横から後ろへ回していく動作です。
肩関節の内旋は、上腕を軸として手を内側にひねる動作です。
クライミング動作での使用例
上記で広背筋の役割を解説しましたが、実際のクライミングのムーブではどう使われているでしょうか。
肩関節を中心として、腕を引き付けて体を持ち上げるときは、肩関節の伸展動作になります。このとき肘を体に近づけていく局面で広背筋が使われています。
また、正体ムーブで代表されるような、肘を曲げて体を引き上げる動作で、肩関節の内転が行われます。
以上のようなムーブはクライミングのほとんどの場面で出てくるものです。この体を持ち上げるという基本の動きにおいて広背筋は重要な役割を担います。
広背筋を鍛える筋トレ
それでは広背筋を鍛える筋トレを紹介します。
懸垂(プルアップ)
広背筋の筋トレとして最初におすすめしたいのはオーソドックスですが懸垂です。
クライミングの動作にも似ており実践的であると同時に、広背筋に強く刺激を加えることができます。
懸垂の効果的な実施方法について紹介します。前提として回数をこなすことが目的ではなく、広背筋に効かせることが目的ですので最初は不自然な動作に感じるかもしれませんが、効率的に広背筋を狙って刺激を与える方法です。
まず、手の幅は肩幅から少し広め、拳一個分から肩幅の1.5倍分くらいの幅でバーを握ります。
握り方についてはバーを握り込むのではなく、親指を他の指と同じ方向に巻きつけるサムレスグリップで握りましょう。こうすることで前腕や上腕に力を逃さずに広背筋に負荷をのせることができます。
そして体を上げるときには、肩をすぼめてしまうと僧帽筋に力が逃げるので、肩はリラックスして肩甲骨を下げるイメージで体勢を作りましょう。そして背中を少し反らし気味で、胸を張って体を持ち上げます。この体勢を作ることで、腰骨と上腕を近づけることができ、より広背筋を収縮させることができます。
ちょっとしたコツとして膝を曲げて両足を組むことによって、背中を反らせる体勢を作ることが簡単になります。
簡単に10回の自重での懸垂ができるようであれば、ディッピングベルトにプレートをつけるなどして負荷を上げていくと筋力向上、筋肥大が進みます。
懸垂が一回もできないという方は、ななめ懸垂から始めたり、チューブをバーにくくりつけて足を引っ掛けて負荷を減らしてやってみるといいです。だんだんと力の弱いチューブに変えていけば、そのうちに自重での懸垂ができるようになります。
ワイドグリップの懸垂
続いて紹介するのはワイドグリップの懸垂です。基本的には上で説明した通常の懸垂とやり方は同じです。
ただし手幅を肩幅の2倍以上を目安に広めにして実施します。手幅を広げることによって、広背筋上部への刺激が強くなりますし、同時に大円筋も鍛えることができます。
また、クライミングにおいて横に遠いホールドを保持するときと同じ動作になるので、実践的な筋トレと言えます。
特に大円筋に効かせたいという場合は、曲がっているバーではなく、ストレートなバーを使用することをおすすめします。ストレートなバーを用いることで、肘を真下に下げる動作になりますので、より背中の上部に効かせることができます。さらにこれはクライミングのムーブにも応用できますので有効です。
チンニング(逆手の懸垂)
次はバーを逆手もしくは手のひらが向かい合うようにするパラレルグリップで持った状態で懸垂をするチンニングです。このチンニングでは手幅はほぼ肩幅くらいでよく、親指を使ってしっかり握り込んでもよいです。
チンニングの特徴としては広背筋がよくストレッチされるという点です。逆手にすることで肩関節の伸展が広い範囲で行えるので広背筋をよく伸ばすことができ、筋肉への刺激が効果的に得られます。
また、逆手もしくはパラレルグリップで実施することの効果として、肩関節への負担を減らすことができるというメリットがあります。順手でバーを持つ場合は腕が広がるので肩に無理な負荷がかかり、インピンジメントなどの可能性があります。それに対して逆手やパラレルグリップは自然なホールド位置なので肩への負担も少ないです。怪我をしにくいというのは大きなメリットでしょう。
ラットプルダウン
マシンを使った広背筋を鍛える代表的な筋トレといえばラットプルダウンです。
動きとしては懸垂と同じなので、グリップはサムレスで持つことや、胸を張ってバーを惹きつけるなどは同じように実施するとよいです。
懸垂と違うポイントとしては、シートに座ってパッドなどで足を固定するので姿勢が安定しているということです。これによって広背筋にピンポイントに効かせることができます。
逆に懸垂は空中に浮いている不安定な状態なので、姿勢を保つための小さな筋肉も動員されるという点が挙げられます。これを多くのモーターユニットを使うといいますが、これによって細かい筋肉も同時に鍛えられるという点がクライミングで必要とされるコーディネーションにもつながってきます。
ローイング
他のマシンを使った背中の種目と言えば、前から後ろに引くケーブルローイングやローローなどです。
これらは前後の動きになるので肩関節の伸展が大きく働き、広背筋の下部に効きます。また、それと同時に僧帽筋にも効いてくるので、背中全体を鍛えるのに効果的です。
手幅は肩幅と同じくらいでよく、しっかり腕を伸ばしたところから、肘が胴体の後ろにいくまで腕を引ききるように動かしましょう。
同じ動作としてダンベルを用いたダンベルローイングでも広背筋を鍛えることができます。
以上、広背筋を鍛える筋トレについて紹介してきました。クライミングの基本の動作である体の引き付けを強化したい場合は、広背筋の筋トレを取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考元
「プロが教える 筋肉のしくみ・はたらきパーフェクト事典」 ナツメ社
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