今回は筋トレの中でもPOF法という手法について紹介し、クライミングのレベルアップのための取り入れ方を書いていこうと思います。
POFとはPosition Of Flexionの頭文字を取ったもので、筋肉の収縮の状態によって種目を使い分ける方法です。これを理解することで、クライミングで必要な筋肉をより効率的に鍛えることができます。
POF法の概要
筋肉の収縮とは
例えば腕を曲げる場合、完全に腕を伸ばした状態から肘を直角にして、力こぶが前腕に当たってこれ以上曲げることができない状態まで曲げていきます。
このとき、力こぶを形成する上腕二頭筋の微細な構造では何が起こっているのかというと、筋繊維を構成するアクチンとミオシンという細胞がスライドしていきます。
この筋繊維同士の重なりが少ないところから、どんどん重なりが増えていき、あるところでこれ以上重ねられない状態まで移動していきます。
また、逆に腕を伸ばしていく場合は二の腕と呼ばれる上腕三頭筋が収縮していきますが、それと同時に上腕二頭筋が伸ばされていきます。ここでは逆にアクチンとミオシンの重なりがだんだんと少なくなっていきます。
この様に微細な筋繊維細胞の動きによって筋肉の収縮が引き起こされます。
収縮の3形態
筋肉の収縮には主に以下の3種類の形態があります。
- 短縮性収縮
- 等尺性収縮
- 伸張性収縮
これらは筋肉に力が入っている時に、実際に伸び縮みしている方向による違いです。
短縮性収縮は筋肉が縮まりながら力を発揮している状態です。例えば上腕二頭筋で言えば、ダンベルを持って腕を曲げながら力を出している状態です。
それに対して、伸張性収縮は“伸張”と“収縮”という逆の意味の単語が一緒になっているので理解が難しい言葉ですが、筋肉が伸びながら力を発揮している状態を言います。
これは上腕二頭筋に注目すると、ダンベルを下ろして腕を伸ばしていく時に、ダンベルの重さに耐えながら力を出している状態です。
等尺性収縮は筋肉が伸びも縮みもしない状態で力を発揮している状態いいます。これはダンベルが落ちない様に重さに耐えて動かさない状態です。
収縮のポジション
上記で説明したそれぞれの筋肉の収縮の状態は、そのポジションよって力を発揮している場面が異なります。このポジションごとに収縮の形態を意識してトレーニングする方法がPOF法になります。
筋肉が縮んでいるポジション、伸びているポジション、そしてその間のポジションそれぞれを意識して集中的に鍛えることで、効果的に筋力を向上させることができます。
以下ではポジションごとに特徴を解説していきます。
収縮種目(コントラクト種目)
筋肉が収縮した状態で負荷が大きくなるトレーニング種目を収縮種目、またはコントラクト種目と呼びます。
上腕三頭筋の筋トレであればキックバックが該当します。
キックバックのスタートはダンベルを持ち、上腕を地面に水平にした状態で前腕を垂直におろします。そこから肘を伸ばしていき上腕と前腕が一直線になって、腕全体が水平になったときに上腕三頭筋が最も収縮しています。このときにダンベルの負荷が最大にかかっているので収縮種目と言えます。
収縮の状態ではぎゅっと力を入れる感覚がわかりやすく、パワーを発揮することができますのである程度重量を扱えます。上腕二頭筋であれば肘の内側の筋肉や脂肪によって可動域が制限されるという特徴もあります。
ミッドレンジ種目
筋肉が縮まっている状態と伸ばされている状態の中間で力を発揮している種目をミッドレンジ種目といいます。通常の筋トレであればおおよそミッドレンジ種目と考えていいでしょう。
上腕二頭筋の筋トレであれば立った状態でのアームカールが該当します。例えばダンベルを持って上げ下げする場合、前腕が地面と水平になり肘が直角になった時に、ダンベルの負荷のモーメントが最大になります。(モーメント:力x支点からの距離で表される量で、これが大きいと負荷が大きい)
上腕三頭筋ではプレスダウンが該当します。ケーブルなどを押し下げる種目なのですが、肘を曲げた状態から伸ばしていく途中の、肘が直角になっている角度が最も負荷が大きくなります。
ミッドレンジ種目は可動域が広く取れて重量も扱えるので、筋力向上、筋肥大に効果的です。
ストレッチ種目
筋肉が伸ばされている状態で負荷をかける種目をストレッチ種目といいます。
上腕三頭筋では腕立て伏せで体を下げていく局面が該当します。体を上げているときは腕がまっすぐに伸びていて上腕三頭筋は収縮しきっている状態ですが、重力は下向きですが腕が垂直なので負荷がゼロの状態です。
ここから肘を曲げながら体を下げていくとき、筋肉は伸びながら力を発揮している状態になります。そして体を地面スレスレまで下ろした状態では、上腕三頭筋が伸びながら強い負荷がかかっています。
上腕三頭筋の種目では他にフレンチプレスもストレッチ種目です。これはダンベルを頭の後ろで上下させる運動ですが、下に下ろすときに上腕三頭筋が伸びながら力を発揮しています。
ストレッチ種目は筋肉に強い刺激を与え、筋細胞の破壊を効率的に行えるので筋肥大には非常に効果的です。しかしその一方で怪我のリスクもあるので様子を見ながら実施するといいでしょう。
クライミングの動作とPOF法
クライミングの実際のムーブではさまざまな筋肉の収縮の状態があります。ここではムーブの特性、体のポジションに合わせた筋力を向上させるためのトレーニングについて考えます。
クライミング動作全体の向上
クライミングをする際には基本的に腕を伸ばし、ホールドを保持したら肘を曲げて体を持ち上げるという動作を行います。つまり腕が直角に曲がっている状態を中心に、腕の曲げ伸ばしを繰り返す運動になります。
この基本となる動作を鍛える場合、POF法でいうミッドレンジ種目での筋力の向上を目指すといいでしょう。
広背筋や上腕二頭筋のトレーニングを目的に懸垂を行うのであれば、ストレッチから収縮までの全体を意識して、特に肘が直角になるポジションを中心に体を上げ下げする状態でトレーニングを実施します。
上腕二頭筋であればアームカール、上腕三頭筋であればディップスが効果的な種目になるでしょう。
引きつけたポジションでの力の発揮
二つ目はロックした状態で体を引きつける時の力の発揮です。
体を持ち上げていき、引きつけて最後のひと押しとなる場面では収縮ポジションとなります。ここで力が抜けてしまうと次のホールドに届かなくなってしまいます。
また、レストポジションで腕を伸ばすことができない場合は、完全にロックしてしまえば力をセーブすることができます。ここで中途半端に肘が開いていたりするとエネルギーを消費してしまい、すぐにヨレてしまいます。
この収縮ポジションを鍛えるため、例えば懸垂では体を上げきって肘の角度が90度以下になるところでの筋トレを実施するといいでしょう。
肘が曲がって脇をしっかりしまっている状態で、広背筋や上腕二頭筋がぎゅっと収縮していることを意識するといいです。
上腕二頭筋であればプリーチャーカールや、上腕三頭筋であればキックバックが効果的な収縮種目(コントラクト種目)です。
リーチいっぱいの状態からの引きつけ
クライミングにおいて多くの人が弱点としているのは、肘が伸びている状態から引きつけができなくて落ちるというものです。これは人体の構造上どうしようもないことですが、弱点を強化することで効率良くクライミング全体のパフォーマンスを向上させることができます。
懸垂では肘が伸び切って体が下にある状態から、肘が直角になる間までを特に意識して実施するといいです。しっかりと広背筋が伸ばされていることを意識して体を持ち上げましょう。
上腕二頭筋で言えばインクラインベンチを用いてやることで腕が伸びている状態での負荷を強めることができます。また、上腕三頭筋であれば上でも書いたフレンチプレスなどがストレッチ種目として有効です。
以上POF法を活用したクライミングのトレーニングの紹介でした。それぞれ取り組む課題や個人の特徴によって強化すべきポイントが異なりますが、POF法を取り入れて弱点に合ったトレーニングをすることによって、より効率的にパフォーマンスを向上させることができます。ぜひ本記事を参考にトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。
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